大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和56年(ラ)65号 決定

抗告人

関山金之助

右代理人

江橋湖三郎

外二名

相手方

日本住宅公団

右代表者

澤田悌

相手方

茨城県住宅供給公社

右代表者

竹内精一

相手方

栗田建設株式会社

右代表者

栗田太平

相手方

関山正憲

相手方

関山憲一

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一抗告の趣旨及び理由

本件抗告の趣旨及び理由は別紙抗告状記載のとおりである。

二当裁判所の判断

1  抗告理由第二について

抗告人は、相手方関山正憲には債務者適格があると主張するので検討する。

本件疎明資料により本件債務者らについて一応認められる事実は、原決定理由第二、二(原決定三枚目表四行目から同四枚目表二行目まで)記載のとおりであり(但し、原決定三枚目裏五行目の「業務(」を削る)、右事実によれば、本件建物の建築主である相手方日本住宅公団との関係において注文者に匹敵する地位にあるものは相手方関山憲一であつて、相手方関山正憲は、本件敷地の所有者であり、かつ、本件住宅譲渡契約上相手方関山憲一の金銭支払債務の保証人であるにすぎず、抗告人からの請求により、本件建設工事をみずから中止し、又は他の相手方らに中止を命じうる法律上の権限があると認めることはできない。抗告人の主張は採用することができない。

2  抗告理由第三、第四について、

抗告人は、日照被害の程度について抗告人宅一階台所西側または一階八畳間西側の各開口部における日影の影響を判断の対象とすべきであると主張し、これを前提として原決定の受忍限度についての判断を非難する。

しかし、日照被害の程度を知るための測定の場所としては、日常生活のうえで日照とのかかわり合いが最も大きい場所である被害者宅の南側開口部をとるのが合理的であり、南側に開口部の存しない場合その他特段の事情のある場合に限り西側又は東側開口部をとるべきものである。そして、本件疎明資料によれば、抗告人宅の南側には開口部のある(抗告人の居室とされる一階八畳間の南側には廊下を介して開口部があり、また、二階八畳間の南側にも開口部がある)ことが認められ、これをさしおいてとくに西側開口部を測定の場所としなければならない特段の事情を認めることはできない。(居住者が老人であることがただちに特段の事情になるものではない。)そうすると、本件における日照被害の程度を知るための測定の場所としては抗告人宅の南側開口部をとるべきものであるから、これと異なる前提に基づく抗告人の主張は採用することができない。

また、抗告人は、原決定には本件地域の冬至期における日影の状態となる時期についての事実に誤認があり、また、抗告人が本件抗告人宅東側(原決定の「西側」との記載は誤認と認める)の旧建物及び抗告人宅南側に喫茶店「三条」の敷地を所有していることを考慮に入れて受忍限度を判断した不当があると主張する。

しかし、本件疎明資料により一応認められる事実は、原決定理由第二、三ないし八(原決定四枚目表三行目から同七枚目裏九行目まで)の記載と同一であり(但し、原決定五枚目表四行目の「日常の」を削り、同表九行目の末尾に「そして、同南側(居室部分の開口部)に対しては図面上同一六時ころ以降となる。」を加え、同七枚目表八行目の「その後」の後に「同月二八日」を加える)、以上の事実によれば、原決定には所論の事実誤認はなく、また、抗告人の被害回避の可能性をも考慮に加えてなした受忍限度についての判断は相当というべきであるから、この点についての抗告人の主張も理由がない。

3  抗告理由第五について

抗告人は、原決定が本件建物による日照阻害の程度は本件建物四階部分すべての撤去ないし建築差止を求め得る程に受忍限度を超えないと判断しただけで、抗告人の申立の範囲内である右四階部分の一部の撤去ないし建築差止についての判断を加えなかつたことは、法令適用の誤り及び審理不尽の違法があると主張するので検討する。

前記認定の事実によれば、抗告人宅南側(居室部分の開口部)に対する本件建物完成による日影の影響が出はじめるのは冬至期において真太陽時の一六時ころ以降であり、この状況は本件建物の四階部分の一部の撒去によつてもなんら影響をうけないうえ、本件仮処分申請の日の翌々日である昭和五五年一一月二八日には本件建物の躯体部分が完成していることが認められるから、仮に、本件建物の四階部分の一部を建築しないことによつて抗告人宅西側に対する日影の影響に若干の変化が期待されるとしても、右四階部分の一部の撤去にともなう当事者双方の受益と損失の程度を考慮すれば、直ちに、相手方らに対し本件建物の四階部分の一部の撤去を命ずることは相当でないというべきである。そして、記録によれば、右一部の撤去または建築差止によつて生ずべき抗告人宅西側に対する日影の影響の変化については全く疎明がないことが認められるのであるから、原審が一部撤去または建築差止について判断を加えなかつたことに所論の違法は存しない。抗告人の主張は理由がない。

四以上によれば、抗告人の本件仮処分申請はいずれも被保全権利の疎明がないからこれを却下すべきであり、これと同旨に出た原決定は相当であるから本件抗告は理由がない。

よつて、本件抗告を棄却することとし、抗告費用について民訴法四一四条、九五条本文、八九条を適用して主文のとおり決定する。

(吉江清景 手代木進 上杉晴一郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例